こんにちは!現在フィンランドの大学院で教育科学を専攻している本同です。
前回の記事では、改札がない駅やカフェでの荷物放置など、見えない信頼によって成り立つフィンランド社会についてお話ししました。
「世界幸福度ランキング1位」
「テストのない自由な教育」
メディアでフィンランドの教育が語られるとき、上記のように日本とは正反対の「楽園」として描かれがちです。
しかし、実際に内側から見てみると、外から見える派手なイメージとは少し異なる景色が広がっています。
フィンランドの人々と日々の生活を共にし、現地の教育制度を学んでいる日本人の私だからこそ強く感じるのは、日本人にとっても非常に身近で温かな現実です。
フィンランドの人々は控えめで、少しシャイで、真面目。
最初の記事でご紹介したように、フィンランド人は実は日本人と気質が似ているように感じることも多いのです。
では、日本人と同じようにシャイなフィンランド人の子どもたちに対し、現地の教師たちはどのような工夫で授業を展開しているのでしょうか?
そこには、制度論だけでは見えてこない「教室内の小さな工夫」がありました。
今回は、私が実際の教育現場で聞いてきたリアルな声をお届けします!
💡 留学ドットコム 編集部より
本コラムは、創業23年の留学エージェント「留学ドットコム」が、現地のリアルな一次情報として監修・お届けしています。
私たち留学ドットコムは、カナダやオーストラリア、フィリピンなど様々な国への留学サポートを行っていますが、どの国に行くにしても「その国の教育的背景や価値観の違い」を知ることは、留学を成功させる大きな鍵になります。
北欧フィンランドの教育現場における「信頼の作り方」は、これから海外へ飛び立つ皆さんにとっても、新しい視点を与えてくれるはずです!
フィンランドの教室は日本に似ている?
メディアでは自由で活発なイメージが先行しがちなフィンランドの教育ですが、現場を視察して特に驚いたことがあります。
それは、教室に入ると静かに席につき、様子をうかがう子どもたちの姿があったことです。
- 「人前で目立つことを好まない」
- 「沈黙は別に気まずいものではない」
そうした空気感は、日本の教室と重なる部分が多々ありました。
正解より「発言する勇気」を重視
フィンランドの子どもたちが「静かでシャイ、人前では目立ちたくない」のであれば、当然、授業での発言に対して控えめな子もいます。
そこで、私は現地の先生にこう尋ねました。
「控えめな子の意見をどうやって引き出しているんですか?」
返ってきたのは、非常にシンプルな答えでした。
「最も大切なのは、『間違いは正解と同じくらい価値がある』と全員が確信できる空気を作ること。
誰かの間違いを笑ったり、敬意を欠く態度を取ったりすることは絶対に許さない。
その安全が保証されて初めて、静かな子は口を開くことができるの」
この先生の授業では、正解を出した生徒だけでなく、「発言したこと」「参加したこと」そのものに対して前向きなフィードバックがしっかりと送られていました。
発言しやすくなる4つの工夫
さらに、教室内では子どもたちが安心して参加できるように、ちょっとした「小さな工夫」も散りばめられていました。
- 1)表現のハードルを下げる:親指を上下に向けるハンドサイン(グッド/バッド)や、端末を使った匿名投票ツールを活用し、声を出さなくても意見を言える環境を作る。
- 2)対話のサイズを小さくする:全体発表の前に、必ずペアワークや3〜4人の少人数グループを挟み、「まずは隣の人にだけ話す」ステップを踏む。
- 3)指名方法の工夫:挙手した子ばかりを当てるのではなく、ランダムや順番制を取り入れ、「当たるのが特別なことではない」日常を作る。
- 4)休み時間の雑談:授業外の何気ない会話を通じて、教員が生徒一人ひとりの興味や人柄を把握し、心理的な距離を縮めておく。
これらは決して、特別な設備や巨額の予算が必要なものではありません。
それに、対話サイズを小さくしたり、ランダムに当てたりする工夫は、日本の教員の方々も多く実践されているものだと思います。(私が日本の小学校を訪れた際もそうでした。)
そして、ICT(情報通信技術)の普及により、今まで以上にタブレットやパソコンを使っての匿名投票ツール等で自分の意見を自由に発表できる機会も増えていると思います。
日本とフィンランドは教育システムの違いばかりが注目されがちですが、実はこのように現場レベルでの工夫は意外と共通点が多いのです。
ただ、日頃の雑談や小さな工夫を通じて「安心して発言できる関係性や雰囲気づくり」については、フィンランドの教育現場はすごく上手だと思いました。
そして、休み時間での子ども達との雑談は、発言への心理的ハードルを下げる大きな要因だと、私は現場を通じて特に感じました。
大事なのは関係性を築くこと
実際、大勢の前で発言するのは大人でも緊張するものです。
だからこそ、日頃の雑談や小さな工夫を通じて安心できる関係性を築くことが、教室全体の『信頼』へと繋がっていくのだと感じます。
日本の教員の方々は次の授業準備で忙しく、休み時間ごとに生徒と雑談するのはなかなか難しいところがあるという事ももちろん理解できます。
ただ、心と心が通い合うことが「信頼」を構成する大切な要因です。
そうした小さな積み重ねが教室全体の『信頼』へと繋がっていくのだと思うので、ふとしたときに1分、2分だけでも子どもたちと何気ない会話を楽しむのも良いのかなと思います。
小さな雑談や工夫から生まれる温かい雰囲気が、子どもたちの発言を促す上で大切な教室作りの本質だと、フィンランドの教育現場を見て私は強く感じたからです。

→東フィンランドにある小学校(廊下にある勉強スペース)
「みんなと同じ」から「違って当たり前」へ
日本で生活していると、「空気を読むこと」や「周りと歩調を合わせること」が美徳とされる一方で、それが同調圧力となって息苦しさに繋がることもありますよね?
これ自体の「良いこと、悪いこと」という判断は、いったん横に置いておきたいと思います。
ただ、これは長い歴史の積み重ねで日本人の文化のようなものになっていて、すぐに変える事は難しいというのは事実だと思います。
一方、実はフィンランドでも日本と同じように集団生活における調和は重んじられます。
しかし、「違い」に対するアプローチは日本とは根本から異なります。
ここでは、現地で見聞きした代表的な5つのアプローチをご紹介します。
アプローチ例1)いじめ予防プログラム「KiVa」
まず特に象徴的なのは、フィンランド発のいじめ予防プログラム「KiVa(キヴァ)」です。
そもそも「いじめ」の多くは、自分たちとの「違い」を標的にすることから生まれます。
だからこそ、フィンランドでは違いを肯定し、守るための手段としてこのKiVaが機能しています。
KiVaが特徴的なのは、「いじめっ子」と「いじめられっ子」だけでなく、周りにいる第三者=「傍観者」に焦点を当てている点です。
例えば、タブレットを使ったシミュレーションゲームやロールプレイを通じて、「もし友達がいじめられているのを見たら、自分はどう動けばいいか?」を子どもたち自身に考えさせ、違いを守って行動する勇気を育てています。
ちなみに、このKiVaは下記のような仕組みが日本でも高く評価されています。
- 「傍観者」へのアプローチ:日本では対策が遅れがちな「いじめを黙認・助長する周囲の生徒」に対し、どう行動すべきかを具体的に教育している点
- 教員が一人で抱え込まない「組織的対応」:担任の教師が一人で対応や抱え込みがちな「いじめ問題」について、フィンランドでは学校内に専門の「KiVaチーム」を置き、組織対応をしている点
- 視覚的な安心感(見回りベスト):休み時間などに目立つ色のベストを着用した教師が見回り活動を行います。これにより「いじめ防止のシンボル」として、生徒が相談先の大人を明確に見つけられる環境を作っている点
アプローチ例2)ストレングス教育「Huomaa hyvä!(フオマ・ヒュヴァ)」
次は、ストレングス教育「Huomaa hyvä!(フオマ・ヒュヴァ)」です。
これは「個人の苦手を克服する」のではなく、「その子の強み(思いやり、ユーモア、勇気など)を見つけて伸ばす」ためのプログラムです。
教室では、専用のキャラクターカードやアプリを使って「〇〇ちゃんは、昨日困っている子を助けていて『思いやり』の力があったね!」と、子どもたち同士で互いの良いところを言葉にして伝え合います。
また、ソーシャルストーリー(社会性発達のための物語)や具体的にお手本となる例を用いて多様性について議論し、「人は誰もが何らかの形で違っており、その違いこそが人間として自然なことだ」と伝えます。
フィンランドの実際の教室では、上記のようなとても温かく実践的な授業が行われています。
アプローチ例3)教科書検定がない
日本では「文部科学省が教科書の中身を審査して、合格したものだけを学校で使用できる」としていますが、フィンランドではそれがありません。
どの教科書を使用するかは、現場の教師や学校の裁量に完全に委ねられているのです。
「学校や教員、そして子ども達によって教科書が異なっていても良い。逆に、使う教科書や教材も現場によって違っているのが普通」というスタンスです。
また、教科書検定がないのは、フィンランド政府が現場の教員を深く「信頼」している証でもあります。(これは2つ目の記事でも紹介した政府や国からの信頼ですね)
↓
・最終的な指導計画や日々の教材開発は、現場の教員に一任されている
上記のようにフィンランドの現場教師は、クラスの特色にあった教材を自由に選べる環境が整っているのです。
アプローチ例4)支援を隠さないオープンな環境
日本では、学習や生活上での困難がある場合には、小中学校で特別支援学級のような少人数学級で特別対応をしていますが、フィンランドでは少しニュアンスが異なります。
もちろんサポートを全くしないというわけではありませんが、フィンランドでは特別な支援が必要な生徒に対しても、それを隠したり過剰に特別視したりする事はありません。
こうしたメッセージが、日常の会話や教材を通して繰り返し伝えられています。
フィンランドでは幼少期からこうした他者との違いを前向きに捉える感覚を養えるため、教育が果たす役割がいかに大きいものかと特に実感させられます。
アプローチ例5)複数人指導で大人が違いを体現
フィンランドでは、Team Teaching(複数教員による指導)が一般的で、教師である大人自身が「違い」を体現しています。
教員同士が異なる指導スタイルや個性を持っていても、講師が互いに深い敬意を払い、協力し合う姿を子どもたちに見せています。
もちろん、子どもたちから「A先生の教え方の方が好き」「B先生の方が上手」といった声が上がることもあります。
そんな時、フィンランドの先生たちは決して否定したり、誤魔化したりしません。
むしろ、これを「違いを学ぶ絶好のチャンス」として捉え、子どもたちにこう語りかけます。
「そうだね。A先生は絵を描いて説明するのがすごく得意だよね。でも、B先生はみんなのお話をじっくり聞くのがとても上手なんだよ。
みんなにも得意なことと苦手なことがあるように、先生たちもそれぞれ違う強みを持っているんだよ」
このように、先生自身に対しても「ストレングス(強み)」に目を向ける姿勢を子どもたちに直接伝えます。
大人自身が多様性を肯定するロールモデルとなることが、何よりの生きた教育になっているのです。

→東フィンランドの湖
日本の「丁寧さ」にフィンランドの「余白と信頼」を
ここからは私の見解です。
フィンランドに住み、様々なことを学んで言えることは、「フィンランドの教育が優れていて、日本の教育が遅れている」といった単純な二項対立ではないという事です。
「教育システム」が上手く機能するかどうかは、社会、文化、国民性、経済、政治など、あらゆる事象が複雑に絡まり合って形成されるものだと思っています。
形だけ真似しても、うまくいかない
例えば、日本でも「自由で開かれた教育」を目指し、一時期海外の真似をして『壁のない教室(オープンスペース)』を導入した学校がかつてありました。
しかし、下記のような問題が出て、結局あとからパーテーションやロッカーで仕切りを作ってしまった…というケースも珍しくありません。
- 冷暖房が効きにくい
- 隣の教室の声が大きく、教師の声が聞き取りにくい
- また、発表する子ども声も教壇まで届かない
- 低学年の児童は廊下が視界に入ると気が散りやすい
どんなに海外で成功している素晴らしいシステムでも、ただ形だけを切り取って持ち込むと、土台となる「文化や国民性」と摩擦を起こして失敗してしまうのです。
教員を管理で縛らない「信頼の文化」
フィンランドでは、実際に住んでみるとあらゆる場面で「信頼」を感じる事ができます。
フィンランドではこの「信頼」を前提、重視した教育システムの構造になっているのは明らかです。
一方、日本の教育界では「教員評価」や「査定」の重要性が叫ばれがちですが、フィンランドはそれらと真逆の極端な「ロー・コントロール(低管理)」をとっています。
国際調査TALIS(2024)のデータを見ると、その差は歴然です。
| 国 | 割合 | 補足 |
|---|---|---|
| フィンランド | 62% | 参加国の中でイタリアに次いで低い水準(OECD平均は88%) |
| 日本 | 90%以上 | 少なくとも年に1回は正式な評価を受けている |
出典:TALIS(2024) OECD (2025), Results from TALIS 2024: The State of Teaching, TALIS, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/90df6235-en
フィンランドのこのシステムから見えてくるのは、「評価と管理」で教員を縛るのではなく、徹底的な「信頼」をベースにした教育運営です。
フィンランドでは教師の約9割が修士号を持つ専門家集団であり、だからこそ外的な評価やペナルティがなくても、教員が主体的に授業を設計できる「信頼の文化」が成り立っています。
日本の教育が持つ「世界に誇るべき美しさ」
一方、日本では「教員不足」やテクノロジーの発展による「急速な社会の変化」などにより、思うような現場環境にならないため、早急な解決案の模索が必要になっています。
だからと言って、現状日本のシステムが遅れているとは全く思っていません。
実は、日本には日本人であることの良さを学校で体現している部分が既にたくさんあります。
- 全員での掃除:自らが使用する空間への責任感。
- 給食当番:他者への細やかな配慮。
- 日直制度:勉強が得意な子も苦手な子も、内気な子も活発な子も、全員に平等(フラット)に「日直」の役割を担う。(クラスという社会の一員としての責任や、クラスの代表になる経験を自然と全員が積める)
- 学校行事(運動会や合唱コンクールなど):海外にも運動会やクリスマスなどの学校行事はありますが、「何週間も前からクラス全員で練習する」という事はありません。
和(チームワーク)や高い協調性を重視し、集団として壁を乗り越えて、クラス対抗で一つの目標に向かう学校行事は日本ならではです。 - 年下への思いやり:上級生が下級生の手を引いて一緒に学校へ行く「班での登校」や、年齢や学年の異なる子どもたちが一つのグループを作り、一緒に遊んだり掃除をしたりする「縦割り活動」。
これらは「お兄さん・お姉さんだからしっかりしなきゃ」という自覚を生み、上級生は下級生を優しく扱い、下級生は上級生をまねて学ぶことができます。
以前、フィンランドの「Kouluvuosi Japanissa」というドキュメンタリー番組で日本の小学校が取り上げられたことがありました。
- 東京の公立小学校の1年間を取材したドキュメンタリー
- 行事を含む学校の日常が特集され、いかにして社会の一員として子どもを育てるかに番組がフォーカス
- 子ども達が泣いたり壁にぶつかったりしながらも自分たちで話し合い協力してやり遂げる姿が映った
諸外国から集まった友人たちがその番組を視聴して感想を語り合った際、非常に肯定的な意見が多く寄せられたそうです。
日本の先生方の献身的な指導や、子どもたちの勤勉さ、集団への思いやりは、世界に誇るべき美しき日本の教育システムの一つと言えるのではないでしょうか?
日々の関わりに「少しの工夫」を
私たちがフィンランドから持ち帰るべきなのは、制度を丸ごとコピーすることではなく、日々の関わり方に加える「少しの工夫」なのかなと感じます。
- 「正しく答えさせること」から「安心して間違えられる場を作ること」へ
- 「みんなと同じにできること」から「違っていることへの理解」へ
日本が培ってきた文化、丁寧で温かい土台の上に、フィンランド流の「安心感」と「工夫」を少しだけ足してみる。
それだけで、教室や家庭は子どもたちにとってさらに呼吸がしやすく、自分らしく自信を育める場所に変わっていくと思います。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
実際の教育現場は日々本当にお忙しく、乗り越えるべきことも多いかと思います。
それでも、現場でのちょっとした工夫や関わりが、子どもたちにとって大きな変化を生むきっかけになるはずです。
このエッセイが何らかのきっかけになればいいなと思います。
以上、3部作でお届けいたしました。
実際にフィンランドの冬は長く辛いことも多かったですが、自然が美しく人々が優しいフィンランドはこの2年で大好きになりました。
ぜひみなさんもどこかのタイミングでフィンランドを訪れていただければと思います。
ではまたどこかでお会いできる日を。 Moimoi!
フィンランド教育の気になるQ&A
この記事の要点と、これまで3記事の情報をまとめたフィンランド教育に関するよくある疑問について、記事を監修する留学ドットコム編集部がQ&A形式で解説します!
Q:フィンランドの教育が「世界一」と言われる理由は何ですか?
A:はい、最大の理由は、単純に教育現場での指導方法や制度以上に、フィンランドの社会全体に根付く「他者への信頼」です。
この「他者への信頼」は、「教員への信頼」にもつながっています。
フィンランドの教師は約9割が修士号を持つ専門家で、国の教科書検定もなく、教材選びから授業づくりまで現場に大きな裁量が与えられています。
国際調査TALIS(2024)でも、校長から正式な人事評価を受ける教員はわずか62%(OECD平均88%)と、「管理」より「信頼」を重視する姿勢が際立っています。
国が現場の教員を専門家として強く「信頼」し、任せる文化が根付いていること。これこそが、フィンランドの教育が世界的に高く評価される最大の理由だと言えます。
また、学校現場でも「間違いは正解と同じくらい価値がある」という安全な空気作りが徹底されており、生徒が安心して発言できる環境が、子どもたちの心地よさや自己肯定感の高さに繋がっています。
Q:日本とフィンランドの学校教育の大きな違いは何ですか?
A:最も大きな違いは「管理」と「裁量」に対する考え方です。
日本では教員の90%以上が少なくとも年1回の正式な人事評価を受ける一方、フィンランドはわずか62%(TALIS 2024)で、教科書も国の検定を経ずに教員が自由に選べます。
授業の進め方にも差があり、フィンランドでは授業での「発言しやすさ」を仕組みで支える工夫が特に目立ちます。
一方で日本には、全員での掃除や給食当番、日直制度、運動会のような学校行事を通じて責任感や協調性を育てる独自の強みがあり、実際フィンランドのドキュメンタリー番組でもその姿は高く評価されています。
つまり優劣ではなく、「信頼をベースにした裁量型」と「協調性を育てる集団型」という、根本の哲学が異なる教育だと言えます。
Q:フィンランドでは「他者との違い」をどのように教えていますか?
A:フィンランドでは、違いを「否定するもの」ではなく「当たり前のもの」として扱う仕組みが複数用意されています。
代表例が、いじめ予防プログラム「KiVa」です。
いじめは「他者との違い」から発生する事が多いですが、「人との違いはあって当然のもの」という前提で、いじめられる子だけでなく周囲の「傍観者」の行動に焦点を当てています。
また、個人の強みを伸ばすストレングス教育「Huomaa hyvä!」では子ども同士が互いの強みを言葉にして伝え合い、学習支援が必要な子どもに対しても特別視せずオープンに支える文化が根付いています。
さらに、複数の教員が異なる指導スタイルを認め合う「Team Teaching(複数教員によるクラスの指導)」を通じて、大人自身が「違いを尊重する姿」を子どもに見せていることも大きな特徴です。
Q:フィンランドの教室では、シャイな子どもの発言をどうやって引き出していますか?
A:現地の先生に取材したところ、教室では大きく4つの工夫が徹底されていました。
- ①ハンドサインや匿名投票ツールを使い、声を出さなくても意思表示できるようにする
- ②全体発表の前に必ずペアワークや3〜4人の少人数グループを挟み、話す規模を段階的に広げる
- ③挙手した子だけでなくランダムや順番で指名し、「当たること」を特別にしない
- ④休み時間の雑談を通じて、教員が生徒との心理的距離を縮めておく
実は、対話のサイズを小さくしたりランダムに指名したりする工夫は日本の教員の方々も多く実践されており、現場レベルでの共通点は少なくありません。
一方で、日本の教員は次の授業準備に追われがちなのに対し、フィンランドでは休み時間の雑談に時間を割きやすい傾向があります。
こうした日々の小さな積み重ねによる信頼関係が、静かな子どもも少しずつ声を出せるようになる土台になっています。
Q:フィンランドの教育を見習う際、日本の教育の良さは失われてしまいませんか?
A:いいえ、日本の教育にも世界に誇るべき良さがあります。
フィンランドの教育システムをそのまま日本へ持ってきてもうまく機能するとは限りません。
教育システムは、その国の社会、文化、国民性、経済、政治など、あらゆる事象の元で影響を受けながら動くためです。
例えば、フィンランドの「安心して間違えられる場づくり」も非常に優れていますが、日本の掃除当番や日直制度、学校行事を通じた協調性教育も海外から高く評価されています。
実際、フィンランドで日本の小学校生活を追ったドキュメンタリー「Kouluvuosi Japanissa」が放送された際も、子どもたちが助け合いながらやり遂げる姿に肯定的な反響が多く寄せられました。
教育システムや制度をそのまま真似るのではなく、日本の丁寧な土台の上にフィンランド流の「安心感」を少し取り入れることが、双方の良さを活かす鍵だと言えます。
Q:フィンランドの「信頼」の文化は、教育現場以外にも見られますか?
A:はい、教育に限らずフィンランド社会全体に「信頼」を土台にした仕組みが浸透しています。
例えば駅に改札はなく、専用アプリでチケットを購入するだけで電車やトラムに乗れる「信用乗車方式」が採用され、不正が見つかった場合のみ100ユーロの罰金が科されます。
また、2013年の社会実験ではヘルシンキで落とした財布12個中11個がそのまま返ってきたというデータもあり、警察への市民信頼度も世界3位(日本は26位)と非常に高い水準です。
フィンランドの「まず相手を信頼する」という価値観が、学校での「教員への信頼」や「子ども同士の違いを認め合う文化」にもそのまま受け継がれていると言えるでしょう。





